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はじめてマザーグースを学ぶ方へ
−ブックガイド

<マザーグースに興味のあるすべての人に>

  マザーグースを勉強したくても、どこから手をつけていいのかわからない。何を見たら知りたいことが出ているのか… という初心者のために、2017年10月現在入手可能なもので、主に日本語の基本的な文献を紹介します (初心者の入手しやすい文献ということで、単行本の紹介に限っています。また、マザーグースの多くは本来、 歌や遊びを伴うものですが、音楽資料 (CD、カセットテープのみのもの) や映像資料 (ビデオ、DVD)はここでは紹介していません)。
目次
A 概説書B 個々の唄の解説書C 邦訳D 英米のイラストE 日本人のイラストF メロディーG 遊び方H 用例I さらに学ぶ人へ

〈凡例〉著者・編者『書名』出版社 出版年(=原則として初版年) ISBN (=国際標準図書番号。洋書でもこれで注文したり インターネットで検索したりできる) 収録唄数。本文の構成。内容紹介。 (表紙画像は、原則として和書は楽天アフィリエイトリンク、洋書はAmazonアフィリエイトリンク)
A 全般的概説書
A-1 平野敬一著『マザー・グースの唄 イギリスの伝承童謡』中公新書 1972 ISBN978-4-12-100275-4

 83篇収録 (替歌二つとドイツの唄一つ含む) 。まず最初に読む本。 構成は、日本への紹介と呼称の由来、イギリスでの集成史 (ニューベリー、ハリウェル、オーピー) 、代表的な唄17篇を中心とした解説 (208p中103pを占める) 、現代英米社会の中での伝承のされ方を紹介。 巻末に、解説付き参考文献、原詩の歌い出し索引あり。
 何といっても、現在に続く第二次マザー・グース・ブームの火付け本である。英文学を志すものの三大基礎文献 (聖書、シェイクスピア、マザー・グース) であるにも関わらず、あまりにも (1972年当時の) 日本で知られていないことに不安を覚えたという著者が著わした入門書。日常生活との関わり、英語の言葉の面白さや押韻、唄い方や遊び方など触れられていない点も多く、副題の「イギリスの伝承童謡」が与える誤解 (英米に限らず英語圏全体) など批判もあるが、 必読書であることには変わりない。

A-2 鷲津名都江著『マザー・グースをくちずさんで』求龍堂 1995 ISBN978-4-7630-9535-0

 77篇収録。ビジュアルから入りたい人はこちら。 「英国童謡散歩」の副題のとおり、第1章は、イギリスの風景や行事や子供たちを美しい写真とカラーイラストで、マザー・グースの唄とともに紹介。さまざまな詩人の訳 (記載がないのは、著者の訳) に著者が簡単なコメントを付けている。ロンドンガイドの項には、「ロンドンの鐘づくし」の唄に登場する教会で現存するものの写真も。第2章は、代表的な唄の主人公を中心に、多くの絵本の挿絵とともに唄を紹介。解説は第1章より詳しい。イギリスでの研究史や日本への到来、アリスとマザー・グースなど周辺についても書かれている。ところどころ、谷川氏や藤野氏によるコラムもある。巻末にブックガイド (原書46冊、日本語32冊のリスト) および歌い出し索引あり。
 とにかく写真とカラーイラストがどっさり。A-1のように、系統だっての紹介ではないが、逆にどこからでも読める作りで、丹念に読めば、イギリスの風物からイラストレーターに関する知識まで豊富に得られる。原書の絵本を持っていなくても、これ1冊あれば、有名な絵本画家の絵がひととおり見られるので、便利。

A-3 藤野紀男著『図説マザーグース』河出書房新社 2007 ISBN978-4-309-76092-6

   当学会会長の著書。「マザーグース」というコトバの意味から始まり、英米人の本質を作る要素の一つであり、だからこそ英語・英文学を学ぶときに必要不可欠なのだと説き起こし、日本のわらべ唄よりも広範囲のジャンルを含み、大人たちも小説や映画や演説で引用するほど子どもだけのものではないことを示し、様々なイラストや、イギリス王家との関わりも紹介している、盛沢山の内容。
   「図説」というだけあってイラストや写真はほとんどカラー。「マザーグースとパブ(1)(2)(3)」「マザーグースと日本(1)(2)(3)(4)」など、コラムも充実。大人向けの入門書として楽しい一冊。巻末には、著者が長年買い集めてきた、マザーグースのキャラクターのぬいぐるみ、絵皿、置物、セーター、クッションなどの写真、イラストの 出典一覧がある。

A-4 鷲津名都江著『ようこそ「マザーグース」の世界へ』日本放送出版協会 (NHKライブラリー) 2007 ISBN978-4-14-084215-7

   NHK教育テレビで2004.12/6〜2005.1/31まで毎回25分ずつ8回放送された同名の講座のテキストを編集し直し、あちこち増補した上、 さらに第八章「マザーグース日本渡来」を加筆したもの。まず第一章「マザーグースって?」では、自分とマザーグースの唄との出会いや「マザーグース」という呼び方についてなどが語られ、第二章「ロンドン橋おちる!」では、この唄にまつわる説や実際の橋の歴史、遊び方やメロディーについて紹介。 以下、第三章「リズムと韻の魅力」第四章「マザーグースとわらべうた」第五章「男と女の心模様」第六章「クリスマスシーズン」第七章「みんなちがってみんないい」第八章「マザーグース日本渡来」第九章「大人と子どもの共通文化」と続く。
   文庫判と新書判の中間サイズのコンパクトな入門書。
B 個々の唄について調べる
<英語の文献>
B-1 The Oxford Dictionary of Nursery Rhymes, ed. by Peter & Iona Opie, Oxford University Press,1951 /第2版 1997 ISBN978-0-19-860088-6
  
 550篇収録(第2版では、初版の491が削除されて549篇)。 構成は、各唄のキーワードをabc順に配列。巻末に歌い出し索引もあるので、キーワードで悩むより便利。オーピー夫妻が「標準」と考えた形の唄が通し番号のもとに並び、各唄について由来や変形の解説が続き、最後にその唄が収録されている童謡集やその他の文献が年代順に略称で列記されている。この列記された文献における詩句が「標準」と異なる部分も記述されているが、必ずしも正確ではない (B-2の平野解説による)。
 現在のマザー・グース研究の最も基本的な文献。前書き ("Preface") に、先駆者J.O.ハリウェルの業績の紹介と、この辞典の見出しの取り方や収録範囲について述べている。45ページもある序論 ("Introduction") は、立派な伝承童謡論だ (「前書き」と「序論」の部分訳が『日本児童文学』1976年11月別冊「マザーグースのすべて」にアン・ヘリングの訳で掲載されている)。略称ODNRはDictionary

<日本語の文献>
B-2 『マザー・グース』1〜4 谷川俊太郎訳、和田誠絵、平野敬一解説 講談社文庫 1981 ISBN978-4-06-133148-8, -133149-5, -133150-1, -133151-8
        
 336篇収録。オーピー夫妻のThe Oxford Nursery Rhyme Book (1955) に準拠した、子供の成長に合わせた「こもりうた」から「ものがたりうた」までの9分類に従って編集。谷川俊太郎訳と和田誠の線描イラストのシンプルな構成。各巻の巻末にその巻の原詩歌い出し索引と、唄ごとの平野解説が付く。第4巻には、それに加え、全4巻の訳詩歌い出し総索引、原詩歌い出し総索引および代表的な23曲の楽譜と全体の解説 (呼称や分類について、この文庫の解説について) もあり。
 4冊買っても1700円ちょっとで、谷川俊太郎訳と平野敬一解説がたっぷり手に入るという、たいへんなお買い得。原書を持っていなくても、全336篇の原詩総索引は使いでがある。平野氏は、オーピーのDictionary(B-1)に見られる初出文献の誤りはできる限り補訂した、と述べている。 (※1984-5年にハードカバー版が後から出版されたが、現在品切れ。同じイラストだが半分はカラーになっている。)

B-3 『完訳 マザーグース』ウィリアム・S.ベアリングールド/シール・ベアリングールド解説・注、石川澄子訳 鳥影社 2003 ISBN978-4-88629-787-7

   884篇収録。The Annotated Mother Goose(1962)の翻訳。オーピーがイギリスなら、ベアリングールドはアメリカ。ウィリアムは雑誌Time社の重役を務め、シャーロッキアン。著書にはホームズの「伝記」もある。 共編者のシールは、他に著作がないが、英語版Wikipediaの「William S. Baring-Gould」によると妻。夫妻で集めた児童文学のコレクションを納める書庫を自宅の隣に建てた、と本の見返しの「編著者紹介」にある。
   マザーグースの集成を時代順に紹介しているのが特徴。注記の多くがオーピーからの引用なので、「研究書ではない」という批判もあるが、何よりオーピーが取り上げていない、諺やなぞなぞ、歳時唄などのたくさんの唄が収録されている点がいい。 石川澄子の唄の訳は、ややクセがあり、意訳しすぎの面もある。また、注記部分には誤訳もあるが、とにかくこれだけの唄が掲載されているのは貴重。(1981〜1982年に東京図書から発行された、三冊本の『マザー・グース』の合本版だが、本にはそのことが記されていない。) 巻末に、旧版では割愛されていた「参考文献」リストと、日本語訳の歌い出し索引あり。

B-4 『マザーグース・コレクション100』藤野紀男/夏目康子著 ミネルヴァ書房 2003 ISBN978-4-623-03920-3

   タイトル通り、100篇収録。「第1章 不思議な唄・残酷な唄」(8篇)「第2章 ナンセンスな唄」(8篇)「第3章 子守唄・遊戯唄」(11篇)「第4章 早口言葉唄・積み上げ唄・なぞなぞ唄」(7篇)「第5章 男の子・女の子の唄」(13篇) 「第6章 奇妙な人物の唄・おばあさんの唄」(14篇)「第7章 王・王妃の唄」(5篇)「第8章 動物・鳥の唄」(8篇)「第9章 お菓子・食べ物の唄」(4篇)「第10章 暗記唄」(6篇)「第11章 物語唄」(8篇) 「第12章 いろいろな唄」(8篇)の12章に分けて、1篇ずつ、邦訳、語注、解説、イラストの紹介を付す。奇数章を夏目、偶数章を藤野が執筆。
   巻末に、参考文献、図版出典、歌い出し索引がある。
C 谷川俊太郎以外の日本語訳
C-1 和田誠訳『オフ・オフ・マザー・グース』ちくま文庫 2006 ISBN9784480422651

 120篇収録。ハードカバー版2冊『オフ・オフ・マザー・グース』(筑摩書房、1989 品切れ)『またまたマザー・グース』(1995 品切れ)の単なる 合本ではなく、「2冊をシャッフルした」と書いてあるごとく、交互でもなく、絶妙に混ぜてある。 イラストはすべて描き下ろし。訳とともに原詩も掲載されているが、 原詩歌い出し索引はない。
 とにかく脚韻を生かそうと、多少の語句の変更も断行した、こだわりの翻訳。例えば「オレンジと レモン」と鳴る鐘が出てくるロンドンの鐘づくしの唄。 原詩では、「Oranges and lemons」と鳴るのは「St. Clement」の鐘。和田訳では、セント・クレメントは「れんがとセメント」と鳴る。 そして元々「れんがと セメント(原詩ではタイルズ)」と鳴っていたセント・ジャイルズの鐘は「オレンジとゆず(レモンをゆずに変更)」と鳴る。 ここまで徹底したのは、谷川訳という正統な訳があるので、 言葉遊びと割り切れたから、だそうだ。
 和田誠は、谷川俊太郎とのコンビで講談社文庫(B-2)の336篇にイラストをつけているが、押韻にこだわって訳したいという思いから翻訳にトライ。日本語で原詩と同じ場所で脚韻を踏もうとしているのが面白い。 谷川訳が決定版なら、「言葉遊び」にこだわったマイナー版、という意味でタイトルが「オフ・オフ・… 」となった。

C-2 内藤里永子訳『ターシャ・テューダーのマザーグース』KADOKAWA 2014.5 ISBN978-4-04-066726-3

   77編収録。ターシャ・テューダー(1915〜2008、米)がイラストを描いたMother Goose (1944)の翻訳。原書はほぼ正方形だが、少し大きい縦長の判型。 カラーと白黒のイラストが半々になっている。田舎の農場生活を愛したターシャは、ボストンの名家に生まれたが、後に開拓時代スタイルの生活を営み、 イラストにも、19世紀風の服装の子どもたちが描かれている。原書は1945年、アメリカで前年に出版されたうち最も優れた絵本に与えられるコルデコット賞 (1937年アメリカ図書館協会創設)のオナー賞(銀賞ともいう。この年は4冊)を受賞。
   訳者は、『ターシャ・テューダーのクリスマス』(メディアファクトリー、2010)ほかターシャ・テューダー作品の訳書多数。著書には 『イギリス童謡の星座』(大日本図書、1990)『絵本作家ターシャ・テューダー』(KADOKAWA、2014)など。 (※原書と同じ判型で、山田詩子の翻訳本『ターシャ・テューダーのマザーグース』(フェリシモ、2000)も出ていたが、現在は品切れ。)

C-3 鷲津名都江訳『ししゅうでつづるマザーグース』評論社 1997 ISBN978-4-566-00378-1

   48篇収録。イラストレーターのベリンダ・ドウンズは、ハンプトン・コート(ヘンリー8世の宮殿で現在は博物館)で働いていたことのある刺繍画家…と原書のカバー見返しにある。 絵柄としては、素朴な感じだが、一針一針、すべて手で縫ったものとして見ると、ため息が出る。日本語訳の目次はあるが、原詩歌い出し索引はない。
   訳者の鷲津名都江は、小鳩くるみの芸名で歌手として活躍。1986年にイギリスのロンドン大学大学院に留学してマザーグースを研究。帰国後、修士論文の翻訳である『わらべうたとナーサリー・ライム』(晩聲社、1992)(I-5)や『マザー・グースをたずねて』(筑摩書房、1996)等を出版(他にA-2、A-4も)。 2017.10月現在、目白大学外国語学部英米語学科教授。
   同じ訳者の訳では他に、F-2『よもううたおう! マザーグース』(講談社、2004.12) にも70篇訳がある。うち28篇はこの絵本と同じ唄だが、訳が違うものもある。

C-4 百々由利子訳『はじめてのマザーグース(CDと絵本)』新装版  ラボ教育センター 1999.10 ISBN978-4-89811-025-6

   11篇収録。絵本作家レイモンド・ブリッグズのRing-a-Ring o'Roses (1962)という絵本の巻末に訳とCDを付けたもの。 ブリッグズが代表作のひとつThe Mother Goose Treasury (1966)(D-3を見よ)を描く前に作った絵本。pp.4〜21までを「Jack and Jill」の唄を詳しく描き、 あと10篇はほぼ見開きに収める構成。1985年にカセットテープ付きで出したものを、CDに変えて新装版とした。
   訳者の百々由利子は、オーストラリア、ニュージーランドの児童文学の翻訳多数。著書に『児童文学を英語で読む』(岩波ジュニア新書、1998)、 児童文学以外の訳書に『クシュラの奇跡 140冊の絵本との日々』(ドロシー・バトラー著、のら社、1984)など。 他に、F-1『親子で楽しむマザーグース』にも2冊合計57篇マザーグース訳がある。

C-5 山口雅也訳『チャールズ・アダムスのマザー・グース』国書刊行会 2004 ISBN978-4-336-04650-5

   27篇収録。The Charles Addams Mother Gooseの翻訳。原書の再版(2002年)を底本としており、 アダムス夫人の前書き、巻末の「スクラップブック」(写真で、アダムズの昔の作品集や雑誌The New Yorkerの表紙絵を紹介)も 全部訳されている。判型は原書より一回り小さい。 チャールズ・アダムス(1912〜1988)はアメリカのカートゥーン作家。「アダムス・ファミリー」として知られる、ちょっと無気味なキャラクターが登場する作品が多い。この絵本にもおなじみのキャラクターが活躍している。
   訳者の山口雅也は、『マザーグースは殺人鵞鳥(マーダーグース)』(原書房、1999。品切れ)や、 「キッド・ピストルズ」を主人公にした、マザーグース・ミステリー・シリーズの作者。 巻末に山口氏の解説が3ページもある。アダムスの作品集リストも付いている。 解説では、年来のアダムス・ファンであること、翻訳に当たっては、 口承伝承であるマザー・グースの原点を尊重して可能な限り韻を踏むよう 心がけたと記している。 例えば、「トム、トム、笛吹き屋のせがれ/豚さん盗んで、逃(のが)れ/豚さん食べられ、トムくんぶたれ/泣いて通りを、また逃れ」。
D 英米の絵本作家のイラスト
<英語の文献>
D-1 ブライアン・ワイルドスミス絵 Mother Goose, 1964 ISBN0-80859377-3 (ペーパーバック版ISBN: 0192721801)

 86篇収録。ブライアン・ワイルドスミス(1930〜2016)はイギリスの絵本作家。 原則として1ページにひとつの唄のイラストと原詩(長いものは1〜2番のみ)を掲載。ただし、Old Mother GooseとOld Mother hubbardは見開きを使っている。巻末に原詩歌い出し索引あり。
 「色彩の魔術師」の異名どおりステンドグラスのような色づかいでパッチワーク風に人物の服や建物を描写する。この2年前に、ABC という絵本処女作でケイト・グリーナウェイ賞を受賞し、絵本作家の道を進み始めた頃の作品だが、すでに「ワイルドスミス調」というべき特徴を完全に備えている。
 邦訳『石坂浩二のマザーグース』 (エム・エ・エム製作、らくだ出版発売 1992 は品切れ。2003年、講談社から再版。ISBN4061892371 これも品切れ)。

D-2 ケイト・グリナウェイ絵 Kate Greenaway's Mother Goose, (c)1881 ISBN978-0-51726289-4

   44篇収録。ケイト・グリナウェイ(1846〜1901)は19世紀イギリスを代表する絵本作家。ウォルター・クレイン、ランドルフ・コルデコットと並び、彫版師兼印刷業者のエドマンド・エヴァンズと組んで仕事をした。 グリナウェイの描く子どもたちは、彼女の生きたヴィクトリア時代より100年ほど前の18世紀の服装をしている。「無垢な子ども」のイメージがよく表されていて、人体のデッサンがうまいとは言えないが、現在に至るまで人気がある。 他のイラストレーターと異なる描き方をしている唄としては、塀の上にすわっている男の子として描かれた「Humpty Dumpty」や、二人の女の子が階段を上っていく後ろ姿を描いた「Goosey, goosey, gander」などがあげられる。
   ※西田ひかるの翻訳本(『ケイト・グリーナウェイのマザーグース』飛鳥新社、2003)は品切れ。

D-3 レイモンド・ブリッグズ絵 The Mother Goose Treasury, 1966 ISBN0-24190800-0

 408篇収録。実に897ものイラスト (カラーと白黒半々) が描かれている。唄により1ページ大のイラストだったり、何篇も同じページに収めたりされている。 ケイト・グリーナウェイ賞〈その年にイギリスで出版された最も優れた絵本に与えられる。イギリス図書館協会創設〉受賞作品。原詩は、オーピーのDictionaryBookから採ったというが、どちらにもないものもある。巻末に原詩歌い出し索引あり。
 レイモンド・ブリッグズ(1934〜)は『さむがりやのサンタ』(原書1973) 、『風が吹くとき』(原書1982) など多くの絵本が翻訳されている、イギリスの絵本作家。 自分の作風を固める一歩となったと思われるマザー・グース絵本。現在のところ収録数最大の絵本で、イラストを探す時たいていあるので、便利。絵本としての邦訳はないが、別のイラストで44篇のみに訳をつけた『マザーグースのたからもの』(百々佑利子訳 ラボ教育センター 2001 4-89811-052-5) と、その44篇分のブリッグズ絵のビッグブック3分冊姉妹編『マザーグースのたからもの The Mother Goose Treasury』Part 1〜3がある。いずれも品切れ。

D-4 アーノルド・ローベル絵 The Arnold Lobel Book of Mother Goose, 1986 ISBN978-0-679-88736-2

 306篇収録。アーノルド・ローベル(1933〜1987)はアメリカの絵本作家。 初版の題名は、The Random House Book of Mother Goose。ローベルらしい、躍動感のあるイラストで、すべてカラー。ネズミと出会う "The giant Jim" 、天気占い唄の "When the peacock loudy calls" 、27のカツラ持ちの "Gregory Griggs" 、あっち行かないと叫ぶよとバッタを脅す "Little Miss Tucket" などあまりポピュラーでない唄も多い。巻末に原詩歌い出し索引あり。邦訳はない。
 ブリッグズに次いで多くの唄を収める。本書は、「がまくんとかえるくん」シリーズなどで既に絵本作家として人気を得てからの作品。ローベルには、これ以外にマザー・グース絵本が2冊ある。The Comic Adventures of Old Mother Hubbard and Her Dog, 1968 (邦訳『ハバードおばさんといぬ』岸田衿子訳 文化出版局 1980 4-579-40093-3) とWhiskers and Rhymes, 1985 (邦訳『ローベルおじさんのねこのマザーグース』三木卓訳 文化出版局 1993 4-579-40331-2) 。後者は、ローベルの飼い猫オーソンに捧げられたローベル自作のパロディ集。「オーソン・ポーソン/プリンにパイ」など。 『ふたりはともだち』 (原書1971。全米図書賞受賞) 収録作品が日本の教科書にも掲載され、日本での知名度はぐんと高くなった。

D-5 ハロルド・ジョーンズ絵 Lavender’s Blue: A Book of Nursery Rhymes, 1954 ISBN978-0-19278225-0 (pbk)

   167篇収録。Kathleen Lines編集。ハロルド・ジョーンズ(1904〜1992)は、イギリスの児童書イラストレーター。吉田新一氏は、「ジョーンズの絵は、グリナウェイの優美さ、クレーンの装飾的趣向、コルディコットの踊りと音楽を総合したような絵である。」 (『英語展望』52号、1976.1)と賞賛している。輪郭線のないタッチ、淡い色調でイギリスの田園風景の中に唄の景色を描く。カラーと白黒のイラストが半々。巻末に原詩歌い出し索引あり。 邦訳はない。

D-6 ルーシー・カズンズ絵 Lucy Cousins' Big Book of Nursery Rhymes, (c)1989 ISBN978-0-333-78335-1

 39篇収録。初版の題名は、The Little Dog Laughed(53篇収録)。現在のタイトルは1998年からで、14篇少ないセレクト版。原詩歌い出し索引なし。 黒い線の縁取りに原色の色使い。ブルーナのうさこちゃんにも通じるシンプルさ、子どもが描いたような親しみやすい絵柄。文字は手書きで絵の一部として扱われている。 "Big book" というだけあって、 "Small book" も4冊あり、この本を分割した形 (1篇未収録、10篇追加) で、 Humpty Dumpty(11篇)、Jack and Jill(11篇)、Little Miss Muffet(12篇)、Wee Willie Winkie(14篇)のタイトルのボードブック版も刊行されている。
 ルーシー・カズンズ(1964〜)は、大人気の「メイシーちゃん」のシリーズでおなじみのイギリスの絵本作家。「メイシー」以前に描いた、デビュー2作目の絵本。邦訳はない。

E 日本人のイラスト
E-1 堀内誠一絵、谷川俊太郎訳『マザー・グースのうた』1〜5 草思社 1975〜76 ISBN4-7942-0037-4、-0038-2、-0042-0、-0047-1、-0050-1

 全5巻で177篇収録。コルデコット風あり、ブリッグズ風あり、さらにはシャガール風もありの堀内氏のイラストは、口調のよい完全現代語の谷川訳とぴったり合って、単に「子どものためだけでないお洒落な絵本」という新しいジャンルも生み出した。巻末に、原詩とその出典あり。
 平野敬一著『マザー・グースの唄』(A-1)がブームの火付け本なら、本書は一時のブームから長い人気へと定着させた。谷川氏は、初めは1巻だけの予定が2巻、3巻と増え、とうとう全5巻にまでなったのは、「堀内誠一さんという現代のトップのグラフィックデザイナーで、イラストレーターである人の感覚が非常に大きいと思う」と述べている(「対談 マザー・グースの世界」『英語教育』1977.12)。
   ※有名な唄だけ約100篇をセレクトして、CDも付けた3巻本『マザー・グース・ベスト』1〜3(草思社、2000 セットISBN4-79421030-2)もあったが、品切れ。

F メロディーを調べる
F-1 百々佑利子訳『親子で楽しむマザーグース ベビー編(CD付き)』 『親子で楽しむマザーグース キッズ編(CD付き)』ラボ教育センター 2006 ISBN4-89811-083-5、-084-3

   『ベビー編』には24篇収録。『キッズ編』には33篇収録。付属のCDでメロディーがわかる。前半にナレーション付きで、後半に歌のみが収録されている。 原詩と訳、イラスト付きの 「あそび方」(聞いて楽しむ唄や唱え唄にはなし)、「パパ、ママのための豆知識」、「イースターについて」などのコラムや、 マザーグース絵本、マザーグースの唄が出てくる本の紹介がある。
   この2冊の特徴は、「『おはよう』から『おやすみ』まで」とあるように、一日の 生活に沿って、唄を紹介している点。「おはよう」「あそびのじかん」「おひるのじかん」「英語であそぼ」 「おかいものにでかけよう」「おやつのじかん」「おともだちとあそぼ」「季節のうた」「パパ、あそんで」 「ねんねの前に」「おはなしきかせて」「おやすみなさい」などなどの章に分けられている。

F-2 鷲津名都江訳『よもううたおう! マザーグース』講談社、2004.12 ISBN978-4-06-212530-7
 
   70篇収録。うち最後の2篇は クリスマスの歌(We wish you a Christmas, Merry are the Bells)。1月から12月までの12章に分け、各月5-7篇ずつ 原詩、訳詩、楽譜(普通、歌わないものには楽譜なし)とともに紹介されている。 唄によっては、イギリスのメロディーとアメリカのメロディー両方の楽譜が 出ている。 遊び唄10篇には、遊び方の説明がカットとともに紹介されている。巻末には、原詩歌い出しABC索引と、訳詩50音索引あり。
   別売のCD(発売番号VICG-60558。現在品切れ。Amazon.co.jpに中古あり)には小鳩くるみ(訳者の、歌手としての名前)による歌を英語と日本語で収録。ただし、普通、歌わないもの等を除いた43曲プラス、この絵本にはない「クリスマスの十二日」「目の見えないネズミ三匹」「ロンドン橋」「偉大なデューク・オブ・ヨーク」の4曲を加えてある。
G 遊び方を調べる
G-1 『うたで出あう、えいごの世界 子どもとうたおう! マザーグース(CD付き)』アルク 2011 ISBN978-4-7574-2000-7

   33篇収録。同じアルクから出ていた『うたおう! マザーグース』(上)(下)(2000年刊。各29篇収録)から31篇を選び、遊び唄2篇を加えて再編集した本。 「動物と自然」「あそびましょう」「食べ物」「楽しく歌いましょう」「子もり歌」の5部構成。うち「大きなクリの木の下で」「I Love the Mountains」等10篇ほど、ふつうマザーグースの唄に含まれないものも入っている。 身体を動かす遊び唄19篇には、簡単なイラスト付きの遊び方が添えられている。歌い方で遊ぶものは、付属CDを聞くとわかる。付属CDには、子どもの声で録音されている点はいい。
   「マザーグースの豆知識」1〜4というコラム(執筆協力・鷲津名都江)では、「マザーグースの作者や全体の数」、「時代背景」、「Humpty Dumptyの引用例」、「ナンセンスやブラックユーモア」等について触れている。
H 用例を調べる
H-1 鳥山淳子著『もっと知りたいマザーグース』フォーイン スクリーンプレイ事業部 2002 ISBN978-4-89407-321-0

 47篇収録。各唄4ページで映画や児童文学などの中の用例を「見出し (原詩歌い出し)」「原詩 (オーピーの語句による)」「著者による邦訳」「解説」という構成で紹介。解説文には、映画のセリフが原文と著者による訳で紹介されるので、わかりやすい。5ヵ所に「萩尾望都はマザーグースがお好き」「ビートルズとマザーグース」などのコラムをはさむ。巻末に「マザーグースがでてくる映画」「マザーグースがでてくる児童文学」のリストあり。
 『英語教育』(大修館)に1997年4月から2001年3月まで4年間連載した「マザー・グースの散歩道」をまとめたもの。巻末のリストは、本文中に紹介したものだけでなく、著者が前著(※)に掲げた分も含め引用を発見した528の映画と62の児童文学の網羅的リスト。項目立ては、「作品名 (邦題、原題)」「種類 (映画のみ)」「作者 (児童文学のみ)」「年代」「国名」「引用マザー・グース」「位置 (映画のみ)」に加え、著者が独自に設けた「マザーグース分類」「用法」「引用の相手」「引用の意図」などの分析がコンパクトに一覧でき、力作である。
 ※前著『映画の中のマザーグース』(86篇) (スクリーンプレイ 1996 ISBN4-87043-142-8) は品切れ。

H-2 藤野紀男著『英文学の中のマザーグース』荒竹出版 1987 ISBN4-87043-035-5
 90篇収録。英詩8篇、戯曲6篇、小説28篇、評論・随筆・雑文7篇、日記・書簡4篇の中のマザー・グース用例を原文をひきながら、解説。特に、第4章はディケンズだけにあてられており、12作品中、19の唄から26もの用例があるという多さである。巻末に原詩歌い出し索引あり。
 「D」の項に掲げたごとく、有名・人気絵本作家たちも、経歴の初期にマザー・グース絵本を描くことが多いように、英米の有名詩人、作家も当然のようにマザー・グースを作中に取り込んでいる。バイロン、テニスン、シェイクスピア、エリオット、ブロンテ、ジョイス、オーウェル… 特に、最終章の日記や手紙となると、作品として意識して取り込んでいるということではなく、通常の比喩として使われているわけで、いかに大人の日常に溶け込んでいるかの証明ともいえる。

I もっと専門的なことを知りたい人は
<文化的背景など>
I-1 『イギリス文化事典』イギリス文化事典編集委員会・川成洋(編集委員長)編 丸善出版 2014.12 ISBN978-4-621-08864-7

   民族性、歴史、文化、慣習、言語などの各項目を見開き2ページ単位で紹介した、中項目主義の事典。1章「イギリスという国」、2章「社会」、3章「物語・小説」、4章「詩」、 5章「演劇」、6章「映画」、7章「音楽」、8章「絵画・彫刻・建築」、9章「教育・スポーツ」、10章「哲学・思想」、11章「歴史・王室」、12章「日英関係」、 13章「スコットランド」、14章「ウェールズ」、15章「北アイルランド」、「もっと知りたい人のための読書ガイド」、索引という構成。
   「マザーグース」の項は、4章「詩」の中のpp.208-9にあり、藤野紀男会長の執筆。

I-2 東浦義雄、船戸英夫、成田成寿著『英語世界の俗信・迷信 <新装版> 』大修館書店 1991 (初版1974) ISBN4-469-24301-9

 英米に滞在したことのある3人の著者が、「生活の中の俗信・迷信」「自然・超自然に関する俗信・迷信」「動物・植物に関する俗信・迷信」のそれぞれを分担して執筆。各章の中は、さらに3〜5の節に分け、各節では個々の項目を小見出しに掲げて記述。解説文中でキーツやシェイクスピアを引用して、文学作品中に表われた俗信の用例が示されているものもある。巻末に、日本語の事項索引、参考文献一覧 (英語31冊) を付す。
 マザー・グースの唄には、歳時唄やおまじないなども含まれている。これらは、イギリス各地の行事や言い伝えに基づいている場合も多いわけだが、慣習に基づく考え方、感じ方などはなかなか辞書や社会史の本に出てこない。そうした時の一助になるのが本書である。実際にマザー・グースの唄が引用されているのは、「恋占い」の項に "Tinker, tailor"、「ヘアピン」の項に "See a pin"、「自然現象」の節に、多数まとまっているくらいだが、あまりこの種の本がないので、手がかりにはなる。

<絵本・イラスト>
I-3 『6ペンスの唄をうたおう イギリス絵本の伝統とコールデコット』ブライアン・オルダーソン著 吉田新一訳 日本エディタースクール出版部 1999 ISBN978-4-88888-287-3

   ランドルフ・コルデコット(1846〜1886)は、19世紀イギリスを代表する絵本作家。ウォルター・クレイン(1845〜1915)、 ケイト・グリナウェイ(D-2)と並び、彫版師兼印刷業者のエドマンド・エヴァンズと組んで仕事をした。 現代に続く「絵本」という表現形式は、 この3人の作品から始まっている、といってもよい。彼らを生み出した、イギリスの〈物語るイラストレーション〉の流れ〜ホガース、ブレイク、クルックシャンク、 クロウキル、ベネットらの業績〜をたどった上で、その頂点に立つコルデコットを論じる。
   著者は、イギリスの英米児童文学研究の第一人者。この本は、コルデコットの没後100年を記念して、イギリスのブリティッシュ・ライブラリーが 開催した展示会のために企画されたもの。

<研究方法>
I-4 『英米児童文学ガイド 作品と理論』日本イギリス児童文学会編 研究者出版 2001 ISBN978-4-327-48139-1

   副題に「作品と理論」とあるように、第1部「研究へのアプローチ 作品とジャンル」では、17の代表的な作品を取り上げ、作品の内容紹介とそのジャンルにおける研究方法などを案内している。 この第1部の冒頭に「1. 『マザーグース』」が取り上げられている。執筆者は、会員でもある夏目康子氏。
   第2部「批評の理論と方法」では、児童文学を研究していくにあたって、どのような方法で取り組むか、主な理論の内容と関連作品、その理論を学ぶための文献が紹介されている。

<研究書>
I-5 鷲津名都江著『わらべうたとナーサリー・ライム〔増補版〕』晩聲社 1997 (初版1992) ISBN4-89188-270-0

 副題「日本語と英語の比較言語リズム考」。第1章「伝承童謡について」で日英のわらべうたを考察。第2章では、日本の近代史 (江戸時代以降) の中でのわらべうたの社会的位置の変化を概観、第3章では、いよいよ目玉の概念「言語リズム素」を日英のわらべうたから抽出、第四章では、わらべうたにおける「言語リズム素」と各母語との関係を分析。著者が1986年〜1990年に留学したロンドン大学教育学研究所の修士論文として英語で書いたものをさらに日本語訳・加筆訂正した。増補版は、初版(1992)に「ナーサリー・ライムを使った実験授業からの一考察」を加えたもの。
 「日本のわらべうたとの比較」の先行研究文献。わらべうたとの比較研究というと唄の種類や遊び方の比較が多いと思われるが、本書は、新しい概念「言語リズム素」を提唱し、日英国民の言語の特徴とリズム感の違いを説明する。わらべうたの動作や楽譜の分析などを通して、子どもたちが母語を獲得する際、その言語に内包する「言語リズム素」が影響して違いが生まれるという。歌手でもある著者ならではの斬新な切り口。日本における初の本格的マザー・グース研究書。

I-6 夏目康子著『マザーグースと絵本の世界』岩崎美術社 1999 ISBN4-7534-1380-2

 第1部は、「ロンドン橋」「コック・ロビン」「ジャックとジル」「ハンプティ・ダンプティ」など7つの唄を取りあげ、詩句の解釈、年代的変遷、挿絵の変遷を詳しく紹介。第2部は、絵本、童謡集の側から時代ごとに「18世紀」「チャップブック」「ヴィクトリア朝 [エヴァンズの<3人組>]」「三大集成 [ニューベリー、ハリウェル、オーピー]」「20世紀」の5章に分けて詳述。巻頭にカラー口絵30ページ、巻末に図版出典 (カラー、白黒別。計300) 、参考文献 (全て原書。73冊) 、日本語による索引を付す。
 「絵本に表われた解釈」の先行研究文献。しかし、特に第2部を見ると、絵本だけでなくそれ以外の童謡集や研究書などの集成史にもページが多くさかれており、初期の挿絵印刷技術から、出版事情などの記述もしっかりしているので、マザー・グース関係出版物全体の歴史が概観できる。 ほるぷ出版の『復刻マザーグースの世界』を持っているだけではわからない当時の状況も勉強でき、現代の絵本作家ワイルドスミス、ブリッグズ、センダックについても知ることのできる貴重な1冊。

I-7 鷲津名都江著『マザーグースと日本人』吉川弘文館 2001 ISBN4-642-05529-0

 巻頭の「マザーグースあれこれ」では「マザーグース」という呼称についてとイギリスにおける研究書の紹介、次の「マザーグース伝来」で日本に初めてマザー・グースの唄が伝えられた明治25 (1892)年前後の事情、「マザーグースと詩人たち」では、大正時代の第一次マザーグース・ブームについて、「多彩なマザーグース訳・絵本」では、戦後の英語教育事情と1970年代後半の第二次マザーグース・ブームについて、「マザーグース受容の多様性」では、コミックスと日本語の歌に現われたマザー・グースについて、「終章にかえて」で日本におけるマザーグース研究を概観。 巻末に、「竹久夢二マザー・グース訳登場作品一覧」(付表1)、図書・絵本などをほぼ網羅した「第二次ブーム以降の主な関連出版物」年表 (付表2)、「コミックスのマザー・グース出典一覧」(付表3) あり。 ※この付表1〜3は、当ホームページの「マザーグース・ライブラリー」ページに掲載されています。(管理人@フィドル猫)
 「日本における受容」の先行研究文献。明治初期の小泉八雲の長男英語教育のエピソードや、大正時代の土岐善麿のローマ字訳の紹介、戦後直後の雑誌『あかとんぼ』掲載の無記名マザー・グース訳についての訳者推定などたいへん面白い。昭和後期以降を扱っている「多彩なマザーグース訳・絵本」の章では、主な翻訳はほとんど網羅しているし、刺繍や料理、タイプの級数表など変わり種も紹介されていて、痒いところにまで手が届いている。 戦後の「第二次ブーム」を、平野敬一氏の中公新書と谷川俊太郎氏の草思社訳の「相乗効果」であるとの分析や、歌としての日本における伝播の指摘など、今まであまり触れられていなかったことである。最後の「日本における研究概観」では、マザーグース研究会(※現在のマザーグース学会)について触れ、今後の研究への提言で締めくくられており、マザー・グース研究を志す者の必読文献。

I-8 夏目康子著『不思議の国のマザーグース』柏書房 2003 ISBN4-7601-2268-0

  第1章「マザーグースの風変わりな少女たち」で "Little Miss Muffet" "Mary, Mary" "What little girls made of?" 等6篇を扱い、第2章「マザーグースの愉快なおばあさんたち」で10篇以上のおばあさんの登場する唄を紹介。第3章「マザーグースの世界」では「月から来た男」や動物・虫が出てくる唄、子守唄やなぞなぞを分析する。巻末に、文中や図版の出典タイトルの日本語での索引 (原題付き) 、図版出典、原詩全文を付す。
 分析手法は、詩句の年代的変遷や異版の違いを見る、イラストの年代による描き方の推移を当時の時代背景や心理学・宗教学の観点から光をあて、各時代の児童文学や一般絵画などを引き合いに出して検証する。特に、おばあさんを扱った第2章では、グリム童話における魔女との比較、昔話の分析手法が応用される。面白かったのは、「ミス・マフェット」のクモは初期の頃 "little spider" だったこと、「男の子は何でできてる?」の最近の異版でついに男女が逆になり、女の子がカエルやカタツムリでできてる絵本を発見したことなどで、著者の丹念な検証に頭が下がる。また、興味深かったのは、「てんとう虫」の唄と1688年の「ウォーミング・パン・プロット」との関わりの指摘である。このことは、オーピーのODNRにもベアリングールドのAMGにも触れられていないので、新しい指摘ではないかと思う。イギリス史の裏話にまで行き届いた著者の目配りにも脱帽である。これもまた、マザー・グース研究を志す者の必読文献なのは間違いない。

※このページは、『マザーグース研究』6号(2004年3月)に掲載した「マザー・グース研究初心者のためのブックガイド ―購入可能な資料を中心に ―」を、 半数ほど購入可能な本にさしかえ、紹介文も多少書き直したものです。(管理人@フィドル猫)
 


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