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研究発表1. ハンプティ・トランプティは塀から落ちるのか?
― トランプ大統領とマザーグース ― 鳥山 淳子
アメリカのトランプ大統領は、インターネット上でしばしばマザーグースの「ハンプティ・ダンプティ」に喩えられている。喩えられるパターンは、Humpty Trumpty とTrumpty Dumpty の2種類。
「Humpty Trumpty / wanted a wall / Humpty Trumpty / Get ready to fall」(プラカードの文)、
「Trumpty Dumpty built a great wall / Trumpty Dumpty had a great fall / All the Americans and all the Mexicans / Didn't want to put Trumpty back together again.」
(レジュメより2例引用。実際には画像付きで、他にもたくさん見せていただきました。)
「ハンプティ・ダンプティ」に喩えられる理由のひとつは、Humpty DumptyとTrumptyが韻を踏むため。もうひとつは「メキシコとの国境に壁を建設する」という発言が、ハンプティが座っているwallを連想させたため、ということだ。
レジュメには「ネットの国のトランプティは大人気」として以下のサイトが紹介されている。これらのサイトには、「ハンプティ・ダンプティ」以外のマザーグースのパロディも多数掲載されている。
「 Donald Trump's Updated Nursery Rhymes」
「 The Best Donald Trump Nursery Rhymes」
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研究発表4. 最古のマザーグース集Tommy Thumbの最新の研究成果と課題
― A・インメル、B・オルダーソン共著 Nurse Lovechild's Legacyを読む ― 高屋 一成
※画像はResearch Gate.net より
関西支部は発足当初より、安藤幸江先生のご指導のもとTommy Thumb's Pretty Song Book(=TTPSB 、M. クーパー、1744)などの最初期の英語ナーサリー・ライム集を原書で、オウピーの事典などを参照しつつ読む等の活動をしていた。現在は主にNurse Lovechild's Legacy(=NLL、コウツェン限定出版、2013)を読んでいる。この本は、現在のマザーグース集の原型ともいえるTTPSBが復刻出版された際の、別冊解説である。
共著者のうちA. インメル氏は、TTPSB以前のマザーグースについての博士論文をUCLAに提出した研究者で、現在はプリンストン大学コウツェン児童図書館の館長である。B. オルダーソン氏は、オウピー夫妻の貴重な児童書コレクションがオックスフォード大学ボドリーアン図書館に納められた際に、1冊ずつ査定を行った専門家である。
TTPSBは「第2巻」しか現存していない。それが1冊、大英博物館に所蔵されているだけだったが、2001年にもう1冊が競売にかけられた。現在1冊目は大英図書館に、2冊目はコウツェン児童図書館に収蔵されている。大きさは約7.6×4.4 cm、全64ページである。今の一般的な「絵本」と比べるとかなり小型で、ページ数はやや多目である。
NLLの情報量は圧倒的で、読み進めるにつれて新しい地平が開けてくる思いがする。同時にこの解説書は、私たちに新たな課題をいくつも投げかけてきている。詳細については、2019年度発行予定の『マザーグース研究』第13号で発表したいと考えている。
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講演 ウォルター・クレインとマザーグース絵本
−ヴィクトリア時代のカラー印刷とデザインに触れつつ−
講師:正置 友子(絵本学研究所主宰、元聖和大学教授)
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正置先生とマザーグースとの出会いは30代のころで、"There was an old woman / And nothing she had"の唄だということです。以来、正置先生は、マザーグースのライムやマザーグースの絵本にもずっと興味を持ってこられたそうです。
1994年にイギリスに留学してすぐにウォルター・クレインの絵本と運命的な出会いをされて、以後6年間、クレインを中心とするヴィクトリア時代の絵本研究の日々を過ごされました。研究を進める上での大きなハードルが二つあり、一つは絵本に掲載されていない出版年を何とか割り出すことと、もう一つは当時の印刷技術について理解を深めることでした。そのために、ラウトリッジ社の手書きの台帳などを何日もかけて解読されたそうです。印刷技術については、セント・ブライド印刷図書館に通って教わる等して、学ばれたとのことです。
ウォルター・クレインの絵本は、エドマンド・エヴァンズの工房で印刷されました。絵本とは、印刷された複製物であり、私たちが見ている絵は、画家のタッチではなく、彫版師の職人芸なのです。現在、印刷技術はたいへん発達しましたが、手触り、肌目のようなものは失われました。当時の絵を拡大鏡で見ると、1ミリの間に5本くらいの線が彫られています。この線は、堅いツゲの木の木口に彫られており、大きな絵のためにはいくつもの木片をボルト接合する必要がありました。そのため、当時イギリスはトルコから大量のツゲを輸入したということです。
当時の絵本は、紙もインクも質が悪く、イラストレーターも本の表紙に名前を印刷されませんでした。エヴァンズは、子ども向けの絵本を安く、しかも美しいカラー印刷で作ろうと考え、クレインと組んで実験的な作品を作り出していきました。1866年のSing a Song of Sixpenceは、赤と青の2色と黒のキーブロック(輪郭線など)で印刷されましたが、1869年の1, 2, Buckle My Shoeでは、赤・黄・青・ピンクの4色と黒のキーブロックが使われました。クレインは、1, 2, Buckle My Shoeの中で、黒を輪郭線だけでなく、初めて色として使いました。
研究を論文としてまとめる際、たくさんの図版を収録したので、本文編と図版編の2分冊になさいました。本文の半分は、突き止めた出版年などを記載した目録だそうです。図版の写真はほとんどご自身で撮影されたということです。英米では、著作権の切れた図版でも所蔵権があり、法律で使用料が1枚2万円等、定められているそうです。絵本の研究者にとっては、ここにもハードルがあるというお話でした。また、論文を出版するにあたり、イギリスでは引き受け手がなく日本で出版することになり、図版の使用許可を得るため、大英図書館、ヴィクトリア&アルバート博物館、カナダのトロント中央図書館などに一通ずつ手紙を書いて許可を求められたそうです。幸い、大英図書館は全て無料で許可してくれたということでした。この他にも、いろいろお話を伺いました。
当日いただいたレジュメは、ウォルター・クレインの絵本リストのほか、The Absurd ABC(1874)やクレインのマザーグース絵本であるBaby's Own Alphabet(1875)等の歌詞全文(ODNRと異なるものもあり)などの資料、講演中に紹介された絵本や参考文献の解説付きリストなど、詳細なものでした。
本当にありがとうございました。
(講演のまとめは、メモとレジュメを元に管理人@フィドル猫が行いました。)
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展 示
展示2・正置先生の著書内容紹介
展示3・A History of Victorian Popular Picture BooksのPart2図版編
展示4・手前左はウォルター・クレインのThe Absurd ABC(正置先生蔵書)。右ページの上の10倍拡大鏡で印刷の線を見ることができる。
展示5・コルデコットの絵本(正置先生蔵書)
展示6・手前がウォルター・クレインのWalter Crane's New Toy Book。奥にハバードおばさんの絵本もある(いずれも正置先生蔵書)。
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※このページの記録・写真等は、管理人@フィドル猫がまとめました。(2019.1)
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