第9回全国大会
2006年12月10日(日)に茨木市生涯学習センターで開催された第9回全国大会には、56名の方々が文字通り全国から参加されました。その報告を記します。
★関西支部よりの報告
高屋さんと5歳の娘さんすずちゃんの歌で始まった研究発表。鳥山さんが英語で力強く話し始められた時は驚きました。高校生の時にマザーグースとの出会いが出来るのは幸せなことです。松村さんの心理療法現場でのお話、弘山さんのマンガの中の用例、どれもMGの奥深さを感じられて、またマザーグース大好きになります。
お昼からの豊田先生の熱っぽい語り、みなさんのマザーグースを愛する情熱が緊張感の中にひしひしと伝わってきます。関西支部の活動報告で例会参加者が地域的にも参加のきっかけも広がりを見せて充実してきたこと、TTPSB作りの話をさせていただきました。藤野先生の「少しでも前に進んでいきましょう」を感じながら、楽しい大会は無事終わりました。
発表の皆様、ご参加の皆様本当にありがとうございます。関西支部も大会をサポートすることができ、大変いい経験をさせていただいて幸せです。支部活動の発表の場にもなりました。
<ちょっと楽屋裏>
あれほどためしたマイクが当日電池ぎれ。配布物足りなくてコピーに行ったら用紙ぎれ。てんやわんやでした。 (報告:信井陽子)
(★以下、編集部のまとめ)
10:00 開会 挨拶・連絡
10:15 研究発表
(1) 高屋 一成 (京都府立須知高校)
「岡本文弥編『おとぎの世界』の訳業――『まざあ・ぐうす』以前の四篇 ―」
『赤い鳥』に次ぐ児童文学雑誌が井上猛一編『おとぎの世界』(文光堂、大正8年4月創刊)。猛一の新内節芸人としての名前が「岡本文弥」。雑誌の中に無記名でマザーグースの訳業がある。
同じ大正時代にマザーグース翻訳を手がけた人たちに、北原白秋、竹久夢二、水谷まさる、竹友藻風、松原至大(みちとも)、土岐善麿、小林愛雄(ちかを)、などがいる。その訳業の比較をプリントにまとめてある。
この時期のマザーグース翻訳史と日本の童謡運動の関わりについてもっと聴きたかったが、時間切れで残念だった。
(2) 松村 恒 (大妻女子大学)
「心理療法に貢献するマザーグース」
ユング派の心理療法に、象徴機能応用がある。そこにメルヘン、おとぎ話などの利用がある。民族の伝える心象を表現している伝承童謡も同じような働きを持つと考えられる。
マザーグースには「ナンセンスな唄」が数多くあるが、それが英語国民の圧迫感を取り除き、精神を「解放」する役割をになっている。また、マザーグースが意味理解できないものを裏解釈したり、書き替えたりする場合もある。
The Lore and Language of Schoolchildren by Opie ( OUP1959)には、暴力的で猥雑で下品な唄が収録されている。オーピー夫人自身が、こうした唄をうたうことの発散的治療法の効果を述べている。
今後歌詞面だけでなく、音楽面からもマザーグースの心理療法の応用が研究されてもよいのでは、というまとめであった。
(3) 弘山 貞夫 (愛知県立豊田東高校)
「アメリカマンガの中のマザーグース」
アメリカ漫画にマザーグースが登場する。取り上げたのは、主に次の5種類。
1. “Off the Mark” by Mark Parisi
2. “Family Circus” by Bil Kean
3. “Dennis the Menace” by Hank Ketcham
4. “Reality Check” by Dave Wahmond
5. “Frank & Ernest” by Bob Thaves
これらの例から、アメリカ(カナダも含む)の子供たち(大人も)は、遊びや唄だけでマザーグースに触れているのではなく、絵本やマンガを通じてもマザーグースに親しんでいることが判る。特にひとコママンガにより、子供たちの日常生活にマザーグースがどれだけ根ざしているかを垣間見ることが出来る。
日本での英語学習者として、マザーグースを知ると生活感覚がわかり、学ぶことがもっと楽しくなることを実感できる。参考までに1例だけ載せておく。
”Off the Mark” by Mark Parisiは、インターネット上で読める。
http://www.unitedmedia.com/comics/offthemark/
(4) 鳥山 淳子 (大阪府立旭高校)
「高校生にマザーグースを! CALL教室の可能性を探る」
高校二年生の「国際理解」授業の中でマザーグースを学習している。英語圏の文化を知り、皆の前でプレゼンテーション力をつけ、英語のリズムを身に付け、発音の改善を目指すのが目的。平成17年度にCALL(Computer Assisted Language Learning)システムが導入され、そのコンピュータを活用している。テキストは講談社英語文庫の『マザーグース』を使用。一人一つのマザーグースを担当し、訳、語句の意味、解説などを書いたプリントを作り、クラスの前で発表する。発表の後、映画のワンシーンを見てマザーグースを確認したり、コンピュータを使いマザーグースの替え歌を作成したり、早口言葉を練習したりしている。
また、高校3先生では「課題研究」で前期・後期で二本の論文を書くことも行なった。取り上げたテーマの一部を紹介すると、
・マザーグースの歴史、
・ピーター・ラビット(ナショナル・トラスト、自然環境)
・マザーグースの子守唄。なぜ子守唄が恐ろしいのか(残酷。心理学的アプローチ、日本の子守唄との比較)
鳥山先生は授業の前半は英語だけで行なっているという。生徒とマザーグースを「楽習」している様子がうかがえる報告だった。
12:15 昼食(休憩・理事会)
13:00 総会
第9回全国大会で総会が開催され、理事会で決定された下記の件が承認されました。
1.新理事 2007年4月から2年間任期の新理事として下記の方々が就任する。
安藤、信井、田村(関西支部)、弘山(中部支部)、松村、鈴木(直)、藤野(関東支部)、夏目、木田、小泉(理事会任命)の10名(敬称略)。
2.会則改定 現行の会則を条文立てにして、事務局長・事務局の規定を盛り込むことにする。
3.IRSCL日本大会 マザーグース学会として50万円を寄付する。
4.国立情報学研究所のサイト 当学会としても認定してもらう手続きを進める。
5.20周年行事 再来年に20周年を迎えるに当たり、何か特別の行事を企画するべく理事会で検討する。
(会長 藤野紀男 記)
マザーグース学会会則 (2006年12月10日改定)
第1条 本会はマザーグースに関する研究を目的とする。
第2条 本会は目的達成のため、研究誌と会報の発行、研究大会・例会の開催、その他の活動を通じて、研究成果の発表、研究資料の紹介などを行う。
第3条 本会にはマザーグースを愛好、研究する者ならば誰でも加入できる。
第4条 本会には会長1名、理事若干名、監査2名を置く。会長は理事の互選により、理事、監査は会員の互選により選出する。各任期は2年とする。ただし、再任・重任を妨げない。
第5条 本会は各地に支部を置き、適当な諸活動を行うことが出来るものとする。
第6条 本会の企画、運営のため、必要に応じて理事会を開く。また、少なくとも2年に1回総会を開き、会務、会計を報告し、重要事項を審議する。
第7条 本会の経費は年会費、入会金、寄付金その他をもって当てる。年会費、入会金の額は理事会において決定する。会計年度は毎年4月1日から翌年3月31日までとする。
第8条 本会の事務局は、理事会の定めた場所に置く。
付 則
1.通常会員の入会金は2,000円、年会費は3,000円とする。ただし、学生は年会費を2,000円とする。
2.支部は、当分の間関東、東海、関西とし、それぞれに支部長を置く。支部長は理事を兼ねる。
3.本会則は、必要に応じて改訂していく。
13:30 講演
豊田 恵美子 先生(同志社大学嘱託講師、華頂短期大学元教授、イギリスロマン派学会理事、オックスフォード大学客員研究員)
テーマ「マザーグースとイギリス・ロマン派詩人」
豊田先生はイギリス・ロマン派詩人の第一世代といわれるウィリアム・ワーズワス(William Wordsworth, 1770-1850)の詩とマザーグース童謡との関連について述べられました。ワーズワスはコールリッジ(S. T. Coleridge)との共著、『抒情歌謡集』(Lyrical Ballads, 1798)でイギリス・ロマン派時代の幕を開けたことで有名です。
ワーズワスは、イギリスの詩が「詩語」(詩特有の言葉)で書かれていたのに対して、日常の話し言葉で詩を書き、日々の暮らしのなかに題材を求めました。このような「庶民派詩人」の彼の詩にマザーグース童謡の影響が見られるのは当然です。しかし、ウィリアムの兄弟の子孫である、オックスフォード大学の故ジョナサン・ワーズワス(Jonathan Wordsworth)教授は豊田先生に「それは研究ではない」と指摘されたそうです。
本講演で、豊田先生はマザーグース童謡の跡がうかがえるワーズワスの詩をいくつか取上げ、説明されました。資料として、詩にも童謡にも、英語と日本語訳を付けられ、対比されました。また、興味深いテープも披露されました。取上げられた詩とマザーグース童謡の主なものを以下に記します。
- “The Tables Turned” (「形勢一転」)と“Boys and girls come out to play”(「男の子、女の子出ておいで」)
- “I wandered lonely as a Cloud”(「私は一人でさまよっていた」)と “March brings breezes loud and shrill,” “Daffy-down dilly”(「3月は強い風が吹く」、「かわいい水仙」)
- “My heart leaps up when I behold”(「私の心ははずむ」)と“When I was a little boy,” “Twinkle, twinkle, little star”(「私が幼い頃」、「きらきら星」)
- “To the Cuckoo”(「かっこう鳥に」)と“The Cuckoo”(「かっこう鳥」)などです。
(安藤幸江 記)
15:00 休憩
15:30 関西支部活動報告
関西支部の大黒柱の信井さんと田村さんが支部の活動を紹介して下さいました。
16:00 閉会
<展示コーナー>
関西支部の手作り絵本の数々。トミーサムなど。それぞれ、宝石みたいにきれいです
展示された古書の数々も圧巻でした。解説目録もプリント資料あり。
<参加者の記念写真>
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