わらべ唄の題材には,民間叙事歌(*romantic ballads…以下「民歌」と略す)と同じものがしばしば見受けられる。俗謡と同じく,
民歌にもまた多くのヴァリエーションが派生しているが,これは(*もとからうつろいやすい状況下にある俗謡と違い)
民歌が世代の嗜好に合わせながら,歌い歌いつがれてきた結果である。また民歌には,前キリスト教文化的な傾向や性格を色濃く遺されているものが多い。
近年,チャイルド(F.G.Child)*1 によって,いわゆる(*高尚な)バラッドだけでなく,
われわれ児童文学の世界にも通づる「家庭的な」民歌をも含んだ素晴らしい民謡集が編まれた。(1)
チャイルド氏の見解によれば,われわれは同じ民歌のいわゆる「中世的な(romantic)」ものと,家庭的なものでは,
後者を通俗に堕したより新しい歌型だと考えがちであるが,わらべ唄化してしまったような歌の方がふつう,
より単純な形態―時には対話形式―で構成されていることから見ても,この通説は成り立たないのではないかという。
グレゴリー・スミス(Gregory Smith) によれば,民歌は現在伝わっているうち最も古いものでもその起源は
「十五世紀の第二から第三四半期(即ち1425〜1475年の間)よりさかのぼることはなく」ゆえに「これらには,
その時代の風趣を反映した事象が多く現れている」(2)そうである。この説は,
より高度で複雑な形態を持つ民歌について向けられたものであるが,同じ筋立てならば家庭版の民歌についても同様の時代的淵源が求められよう。
この起源説は,民歌と舞踏や歌唱との関係を考えるとき,いまだ疑問な点はあるが,この件に関しては今後の研究が待たれるところとしたい。
さて,古い民歌の有名なものの一つに《妖精の騎士》(The Elfin Knight)という歌がある――
My plaid awa',my plaid awa', 舞えや錦布 舞え錦布
And o'er the hill and far awa', はるかかなたに丘越えて
And far awa' to Norrowa, 越路越国舞い越えて
My plaid shall not be blown awa', 我が身はなるゝことはなし
The Elfin Knight sits on you hill, 妖しの騎士は丘のうえ
Ba,ba,ba,lilli ba, ぷぷぷ ぴりぷ
He blaws his horn both loud and shrill, 高らに響くは狩りの笛
The wind has blawn my plaid awa', 風に錦布舞い飛びて
He blows it east, he blows it west, 角笛東へ 鳴らして西へ
He blows it where he liketh best.(3) 趣きあらん人よ聞け…
1670年の,最も古い文献例はこうした歌い出しで,続けて妖精騎士とある婦人の間に交わされた問答が連ねられている。
このように,不可能な課題をかせられた者が,その難題から逃れるため,それに負けないような難問を案出する,
さもないと相手によってあらかじめかせられているある義務を果たさなければならないことになる。こうしたかけあい問答(flything)は,
遠く文学の世界に由来する。この歌の妖精騎士は,かのご婦人の愛を受け入れるか否かに,彼の魂ともいうべきプライド
(*plaid…紋章などの入った長方形の布の肩かけ)を賭けて,彼女に三つの難題,すなわち「縫目のない袋を作り」「水のない井戸で洗い」
「いまだ花を咲かせたことのない木にかけて乾かす」をかける,そのお返しに彼女は「一エーカーの土地を雄羊の角で耕し」「粒胡椒をまき」
「皮で出来た鎌で刈る」ことを要求している。バラッド業者(*ballad-monger…辻売りで民歌の楽譜などを売る)にとっては
お手軽な題目でしかなかったろうが,こうした難題にはもともと何らかの深い意味があったものと思われる。たとえば,
チャイルドが引いているこの歌の別の版では,これと同じ問答が,ある女性と,老人(the auld,auld man)との間に交わされている。
彼女を連れ去らんと脅かすこの老人は,のちに正体が明かされるが,じつは「死神(Death)」なのだ。つまり,
先の歌の「求婚者が一命を賭して女性を獲得する」という趣向は「死神がその犠牲者を求める」という観念をもとにしているのかもしれない。
また(*妖精だの騎士だのと言った)中世風のお膳立てはないものの,これらと同じ問答は,収集1783 および 1810 に見える単純な対話形式の唄にも出てくる。
先の歌同様に,求婚者からの問答歌ではあるものの――
Man speaks おのこのいわく
Can you make me a cambrick shirt,*2 シャツの布地は寒冷紗
Parsley,sage,rosemary,and thyme, パーセリ・セージ・ロズメリー に タイム
Without any seam or needlework? 縫目の一つもなしで
And you shall be a true lover of mine. されば君まこと愛す
Can you wash it in yonder well? 洗う井戸はあなたに
(Parsely,etc パーセリ・セージ …)
Where never spring water or rain ever fell. 井戸は涸れ 雨も降らない
(And you shall,etc. されば…)
Can you dry it on yonder thorn, ほすはこなたの茨こき
Which never bore blossom 片花も
since Adam was born? 咲かぬ人世のはじめより
Maiden speaks おとめのいわく
Now you have asked me questions three, そなたの願いも はや三度
I hope you will answer as many for me. 次にみどももお返ししたし
Can you find me an acre of land, 所領きっかり一エーカー
Between the salt water and the sea sand? 浪と砂とのはざまが良いわ
Can you plow it with a ram's horn, 耕す鍬は羊の角よ
And sow it all over with peppercorn? 蒔くは実らぬ粒胡
Can you reap it with a sickle of leather, 刈るはなめした革の鎌
And bind it up with a peacock's feather? ゆわえ束ぬは孔雀羽根
When you have done and finished your work, さても見事にこなしたら
Then come to me for your cambrick shirt, シャツをば取りにお寄んなさい
(c.1783,p.10)
――一見したところでは,これが民歌の系を引くものであるとは思われないかもしれない。
また,ここで男性がわにかせられている難題は,べつのわらべ唄ではたんなる「大法螺」として使われており,本来あった
「典型的な不可能事」という意味合いはまったくうせてしまっている。
My father left me three acres of land, 父さん遺産は三坪の不動産
Sing,sing sing sing, 歌えや歌えやれそれ歌え
My father left me three acres of land, 父さん遺産は三坪の不動産
Sing holly,go whistle and sing, めでた高砂笛吹いて歌え
I ploughed it with a ram's horn, 羊のツノで耕しましょう
And sowed it with one pepper corn. 蒔いてみましょう粒胡椒
I harrowed it with a bramble bush. 馬鍬で梳きましょ茨こき
And repeat it with a little pen knife. 紙切りナイフ でちょいと切り
I got the mice to carry it to the mill, ネズミ刈り入れ粉屋に運び
And thrashed it with a goose's quill. ガチョウの羽根で殻を剥き
I got the cat to carry it to the mill, ニャンコ刈り入れ粉屋に運びゃ
The miller swore he would have her paw, あるじ多忙で猫の手借りて
And the cat she swore 借りたその手で
She would scratch his face.(N.& Q.VII,8 *nc)*3 ひっ掻かれ。
《我が子よビリー》(Billy my son)というシンプルなかたちのわらべ唄をハリウェルが採録している。この歌の筋立ては
「ランダル卿(Lord Randal)」(4)の歌として有名な民歌のそれを下敷きとしている。
同じような筋立てのお話しはスコットランドにおいても《可愛い小鳩》(The Croodin Doo)(1870,p.51)として知られており,
また80年ほどむかしリンカンシャー州(英東部)では《ヘンリー王よわが息子》(King Henry my son)として語られていた(N.& Q.8,VI,p.427)。
中世民歌のこの歌は,5つの節からなり,主人公はローランデ卿(Lairde Rowlande)*4 とされる。
森から帰った彼は,狩に疲れ,死を予期している。なんとなれば,彼はまことの恋人とあおぐ人のもとで,
彼の護衛や猟犬を殺したのと同じ毒入りの料理を饗されたのだ。この悲劇も,わらべ唄だと,かくもさらりとまとめられてしまう――
Where have you been to-day,Billy my son?
Where have you been to-day,my only man?
I've been a wooing,mother; make my bed soon,
For I'm sick at heart,and fain would lie down.
What have you ate to-day, Billy my son?
What have you ate to-day, my only man?
I've eat eel pie,mother;make my bed soon,
For I am sick at heart,and shall die before noon. (1849,p.259)
今日はいづこへ ビリーよ我が子
今日はいづこへ 大事の我が子
逢瀬よ母様 寝床を頼む
恋の病よ 今にも倒る
何かお食べか ビリーよ我が子
何かお食べか 大事の我が子
鰻のパイをね 寝床を頼む
恋の病よ 昼までもたぬ
トミー・リン(Tommy Linn)という人物の出てくるわらべ唄がある。このトミー・リンは中世騎士物語の主人公で,
多くの有名な民歌に吟われている,タム・リン(Tam Linn) のことである。タム・リンという名前の歴史は古く,
1549年に出されたヴェッダーバーンの『スコットランド人のこぼれ話』(Complaynt of Scotlande)
*5 の中にはもう,羊飼いたちの語る物語として「若殿のタムレインのお話し
(The Tayl of the young Tamlene) 」というのが見えるし,1588年頃には〈ソーマリンのバレエ〉(A Ballet of Thomalyn)
*6というタイトルのダンスがあった。(5)
民歌のタム・リンは,リンゴの樹の下で眠っているうち妖精たちに魅入られてしまい,ハロウィーン(Hallowe'en 万霊節前夜)
の日の貢物として彼らの世界へ連れてゆかれることとなる。七年に一度,この日,妖精は外界に出て,その望むものを何なりと獲得出来ることになっているのである。
タム・リンはそこで,彼に思いを寄せる女性に打ち明ける。自分が魔法によってどんな姿に変えられようとも,
しっかり抱き留め続けてくれ。そして彼が鳶に変わった時,水の中に投げ込んだならば,彼は元通り人間の姿に戻ることが出来るだろう――
と。
この中世騎士物語のタム・リンをもとに,わらべ唄にある「トミー・リン」はかたちづくられたのである。彼の行状は,
ハリウェルもとりあげているように,英国北部において様々なかたちで語り伝えられている。とはいえ,それらわらべ唄のトミー・リンと,
中世騎士物語のタム・リンとの共通点はといえば,どのような災難がふりかかってきても,当意即妙に対応して見せる,
という所くらいしかないようだが。
Tommy Linn is a Scotchman born, トミ・リン生粋蘇格の生れ
His head is bald and beard is shorn; 顔にないもの髪にヒゲ
He has a cap made of a hare skin, かむるはウサギの毛皮の頭巾
And alderman is Tommy Linn. 町じゃ大尽トミー・リン
Tommy Linn has no boots to put on, トミ・リン長靴もってない
But two calves' skins and the hair it was on. 髪でゆわえた牛皮二枚
They are open at the side and the water goes in, わきはがらあき水しんしん
Unwholesome boots,says Tommy Linn. 悪い靴だとトミー・リン
Tommy Linn had no bridle to put on, トミ・リン馬には手綱なし
But two mouse's tails that he put on. ネズミの尻尾二本を渡し
Tommy Linn had no saddle to put on, トミ・リン馬には鞍もなし
But two urchins' skins and them he put on. ハリネズミ皮にて代用し
Tommy Linn's daughter sat on the stair, 段に掛けるはトミ・リンの娘
O dear father,gin I be not fair? 父上わたくし奇麗じゃなくて?
The stairs they broke and she fell in, 階段崩れて嬢やは爆沈
You're fair enough now,says Tommy Linn. 奇麗になったとトミー・リン
Tommy Linn had no watch to put on, トミ・リンないが懐中時計
So he scooped out a turnip to make himself one; 蕪引抜きこさえる自家製
He caught a cricket and put it within, コオロギとらまえさて監禁
It's my own ticker,says Tommy Linn. コチコチいわせたトミー・リン
Tommy Linn,his wife,and wife's mother, トミ・リン 奥方 お姑(シュウトメ)
They all fell into the fire together; みんないっしょに火あぶりで
Oh,said the topmost,I've got a hot skin, 上がいうには熱さがじんじん
It's hotter below,says Tommy Linn. (1849,p.271) 下にゃ叶わんとトミー・リン
この唄,もしくはこれに類する唄がもとになって,いくつかの短いわらべ唄が派生している。たとえば,
チェンバースの収集に見られるこの唄などもそれである――
Tam o'the Lin and his bairns, タム・ヲ・ザ・リンと子供たち
Fell i'the fire in other's arms ! 火あぶり刑とついになり
Oh,quo'the bunemost,I ha'e a hot skin !! 上の連中熱さに乱心!!
It's hotter below,quo'Tam o'the Lin. 下のが熱いとタム・ヲ・ザ・リン
(1870,p.33 *nc)*7
ウォルター・スコット卿(Sir Walter Scott) は,小説『紅の籠手』(Red-gauntlet)*8
の中に〈サー・サムヲリン〉(Sir Thom o'Lyne) という唄の一節を引用している。
ちなみに,童謡集によっては,このスコットランド人「トミー・リン」の一代記が,アイルランド人「ブライアン・ヲ・リン(Bryan
O'Linn)」のそれにすげかわっている場合もある――
Bryan O'Lin had no watch to put on, ブリヤン・ヲリンにないのが時計
So he scooped out a turnip to make himself one: 抜いた蕪でこさえた自家製
He caught a cricket and put it within, ついでコオロギ逮捕で監禁
And called it a ticker,did Bryan O'Lin. コチコチ泣かすブリヤン・ヲリン
Bryan O'Lin had no breeches to wear, ブリヤン・ヲリンに袴なし
So he got a sheepskin to make him a pair: 生地に羊の皮を剥ぎ
With the skinny side out and the wooly side in, 皮は表に毛は裏に
Oh! how nice and warm,cried Bryan O'Lin. 思わず歓声ブリヤン・ヲリン
(1842,p.212 *nc)*9
これらの唄をもとに,また多くの猫に関するわらべ唄が生れている。たとえばアメリカ渡りの
*10 唄に,こんなものがある――
Kit and Kitterit and Kitterit's mother, キットとキッテリットとおっ母さん
All went over the bridge together. お手ゝつないで橋越えた途端
The bridge broke down,they all fell in, 橋が崩れて 転落全員
“Good luck to you says Tom Bolin. 「御機嫌よう」とトム・ボリン
(* Kit,Kitteritはよくある仔猫の名前)
最近の童謡集にも次のような唄が収録されている。
The two grey cats and the grey Kits' Mother, 灰猫二匹に母さん猫一匹
All went over the bridge together; 橋を渡った手ゝを引き
The bridge broke down,they all fell in, 橋が崩れて奈落の底へ
May the rats go with you,sings Tom Bowlin. 「鼠のご加護…」と歌の声
(1873,p.136)(*May the rats… は May God go with you! のもじり)
こうした,猫とトミー・リンという組み合わせは,「トミー」の出てくる他のわらべ唄にも見られる。民歌において彼は,
彼自身を水の中に投げ込んでくれと頼んでいるが,今度は猫を水に投げ込む方,として。おそらくこの「猫」は魔女を暗になぞらえているものであろう
――魔女の嫌疑をかけられた者は,魔力の有無を確認するため,水の中に投げ込まれる(*魔女は水に沈まないとされていた)のが常であった。
Ding−dong−bell, きんこん鐘の音
Poor pussy has fall'n i'th'well, 猫ちゃん井戸ね
Who threw her in? 誰が犯人?
Little Tom O'Linne, トム・ヲリン
What a naughty boy was that 何てまったく悪い子だい
To drown poor pussy cat, あわれ猫ちゃん水死体
That never did any harm, おいた一つもしなんだに
But catch'd a mouse i'th'barn. 納屋で鼠を捕えた他に
(1797…N.& Q.5,・,442,Rimbaultの引用による)
他にもこの唄にはこれが,ジョニー・グリーン(Johnny Green)(c.1783,p.23)とか,トミー・クイン(Tommy Quin)
(ラッシャーのトイ-ブックスより)となっている版もあるが,その名前の古さから考えても,これらが「トミー・リン」
のくずれたものに過ぎないことは明らかであろう。
童謡集によっては‘Who put her in? Little Tommy Lin,’のあとに‘Who pulled her out? Little Tommy[or Dickey] Stout.’
という一節が加えられていることもある。筆者もこれが――
…Who put her in? Little Tommy Thin.
Who pulled her out? Little Tommy Stout.…
――となっている唄を聞いたことがある。
また,ここにある「スタウト」という名前も,古いものであろう。なぜなら,外で居眠りして,自分が誰だか分からなくなってしまった,
というおばさんの出てくる,あるお話し唄のなかに同じ名前が見られるからである。英語で唱われる版においては,
筆者はリンボルトの採録した――
There was a Little woman as I've heard tell, ちっちゃなおばさんいたそうな
Who went to market her eggs for to sell.*11 卵を売りに行ったは市場…
――ではじまるものより古い版を知らないが,これはじつは,非常に歴史の深い物語の一つである。
上の唄には続けて,出かけたおばさんが外で居眠りしてしまったこと,そこにスタウトという男がやってきて彼女のスカートをぐるりと
切りとってしまったこと,目覚めたおばさんが(*自分の奇態な姿を見て)自分が誰だかわからなくなり,飼犬に判じてもらおうと
自宅に戻ったこと(1864,p.6),などが語られているが,グリムの『お伽話』(No.35)*12
にある「賢いエルゼ」(Kluge Else)の結末でも,これと同様のくだりが語られる。こちらでは,スタウト氏の代りに,エルゼの夫が,
彼女のスカートにぐるりと鈴をぶらさげている。ここでは彼女が眠りに陥ったのは「穀物の刈り入れ中」であると述べられているが,
ノルウェーで発見されたこれの類話には,さらに興味深い点が見られる。そこでは,ご婦人が眠りに陥るのは「麻(hemp)」
の刈り入れの最中とされているのだ。これによって(*目覚めたおり)なぜ彼女が正気を失っていたかの説明がつくだろう。
すなわち,刈り取ったばかりの麻には,強い酩酊成分が含まれているのである。
前キリスト教時代,巫女が(*神託を得るため)小型の陶製パイプを用いて吸っていた薬草(herb)というのは,
おそらくこれのことであったろう,といわれている。また,麻の種まきや刈り入れという行事に関係して,ヨーロッパ各地で見られる,
〈エンフィレ・エギューレ〉(Enfille aiguille *意味は後ろと同じ)とか〈針と糸〉(Thread-the-Needle) といった特徴ある舞踏も,
こうした麻の酩酊効果と関係があると推測される。ちなみに,麻と異教徒の占いの儀式との関係は,
有名なこのまじない唄にも示唆されているものである――
Hemp-seed I set, hemp-seed I sow, 植えます麻の実 刈ります麻を
The young man whom I love, 私の愛する若人は
Come after me and mow. (1890,p.414) 刈りに来なさい 私の後を
これと同様の唄句は“Mother Bunch's Closet …”(1802,参本書第3章)にも「未来の夫の幻の姿が見える」
まじないとして引かれている。*13
〈第5章注〉
○原注
1 F.G.Child,“English and Scottish Popular Ballads 1894,
2 Gregory Smith,“Periods of European Literature 1897,p.180
‘The Transition Period' より
3 Child,上述 vol.1,p.6 より ‘Fleet,Thomas'
4 〃 p.157, Lord Randal
5 〃 p.256, Tamalene
○訳者補足
本章で2番目に論じられた,わらべ唄における Tommy Linn 等の名前の起源について。これを Romantic ballad
の主人公 Tam Linn(or Tamelene) にもとめるという説は,Opieも「よく confuse されるが no
conexion だ」と言っているように,現在ではほぼ否定されている。注意。
○訳者補注
*1 F.J.Child(1825〜96) ハーバード大学教授。民謡研究家。
*2 ‘cambrick’は仏Flanders地方Cambray 名産の薄地の高級亜麻布で「ハンカチの材料」として有名。
ハンカチでシャツを作れという難題。
*3 N.& Q.指定個所にはこの唄はなく,代りに
My father gave me an acre of land,
Sing ivy,sing ivy.
My father gave me an acre of land,
Sing green bush,holly,and ivy.
I plough'd it with a ram's horn,Sing ivy,&c.
I harrow'd it with a bramble,Sing ivy,&c.
I sow'd it with a peppercorn,Sing ivy,&c.
I reap'd it with my penknife,Sing ivy,&c.
I carried it to the mill upon the cat's back,
Sing ivy,&c.
*Then follows some more which I forget,but I think it ends thus:
I made a cake for all the king's men,
Sing ivy,sing ivy.
I made a cake for all the king's men,
Sing green bush, holly,and ivy.
(Notes and Queries,1st ser.No.166.Jan.1.1853-reprint 1st.ser.vol.7 p.8)
――という唄が入っている。本文にある唄の本当の典拠は不明。
*4 ‘Lairde’は蘇格語で英語のLordに相当する尊称。
*5 “Complaynt of Scotlande” 1548-49年にSt.Andrewsで発行された稀稿本。ボカッチオの『デカメロン』同様の筋立てで,一群の羊飼いたちが寄り集って昔話や歌を語り合う。
*6 1557-8年出版協会の登記簿にJhon Wallye & mistress Toye 名義で‘ballet
of Thomalyn’というものが登録されている。本文の記載はこれに基づくが OXDNR,p.414 等によれば,この時代にはまだ‘ballet'
という言葉に現在のような意味はなく,これがどんなものなのかは定かではないという。
*7 収集1870の該当個所には‘Tam o' the linn cam up the gait …' で始まる4節の唄が収録されている。典拠不明。
*8 “Redgauntlet" 1745年のJames 党の大叛乱(所謂ジャコバイトの乱)を舞台にした武侠小説。
Sir.Walter Scott(1771〜1832)は小説の他,民謡にも造詣が深い。
*9 収集1842 指定個所にはなし。Intriduction E〜F に,これの前半節4行と一致する唄はあるものの,
後半節を含む版は典拠不明。
*10 明記されていないが,Isaiah Thomas によってアメリカで出された
“Mother Goose's Melody"c.1825を典拠にしたためこう言っているのだろう。OXDNR,p.415 参照。
*11 歌の全文を補足しておく。
There was an old woman,as I've heard tell, さてもお婆がちょいとおり
She went to market her eggs for to sell; 卵を売りに行った市
She went to market all on a market-day, 市のたつ日は大会合
And she fell asleep on the king's highway. ねむりにおちた大街道
There came by a pedlar,whose name was Stout, 行商スタウトそこへと参り
He cut her petticoats all round about; 切ってとったが下着のぐるり
He cut her petticoats up to the knee, 切って出したよひざのうえ
Which made the old woman to shiver and freeze. さしも婆様寒さにふるえ
When this little woman first did wake, チビの婆様ぱちりとめざめ
She began to shiver and she began to shake, ぶるりふるえて連発くさめ
She began to wonder and she began to cry, 途方に暮れて泣きだした
Oh! deary,deary me,this is none of I! あれまあこれが私なものか!
But if it be I,as I do hope it be, これが私かそれとも否か
I've a little dog at home,and he'll know me; 知っていましょう我が家の犬が
If it be I,he'll wag his little tail, もしもそうなら打ち振る尻尾
And if it be not I,he'll loudy bark and wail. もしも違えば吠えるよきっと
Home went the little woman all in the dark, 家についたが日暮れ頃
Up got the little dog,and he began to bark; 見分けつかずに吠えつく犬コロ
He began to bark,so she began to cry, 犬はほえほえ婆泣き泣き
Oh! deary,deary me,this is none of I! やっぱこいつは私じゃない!
(OXDNR p.427〜28)
*12 現行 KHM.No.34。
*13 ハロウィーンの日に,教会の庭に行って左の肩越しに麻の種を投げまき,
このおまじないを唱えると,未来の夫が鎌を手にして現れるという。